「恋~バカ殿編~」
どらぽん
ある、バカな殿様がいまして、バカであるがゆえに、
字が読めませんでした。
殿様なのに、字が読めないのでは、バカがバレてしまう。だから、つねに、家臣がついていて、殿様に、字を読んで教えていたそうです。
だから、ある日のこと、手紙を腰元から手渡された殿様は、それを伝説の恋文と確信して、読もうとしてがんばるのですが。バカだから読めません。
腰元は、まさか、バカとは思いもしませんのでした。まだ、新入りなのでしょうか?
バカ殿に恋をしたのですね。それで、手紙は、バカ殿の家臣が読んであげることにしました。
「親愛なる殿様へ(今風になるとこうなるでござる)こんど、お月見をご一緒いたしとう存じます。(まあ、そんなかんじだな)」
「月見か・・月見じゃのう」
殿様は、そう言うと、鼻の下をのばして、
「苦しゅうない。月見をいたそう」
とか、家臣に言いつけました。
腰元は、晴れて月見に招かれて、殿様と月見を楽しみました。
腰元は、言いました。
「どうして、お月見がしたいのでございますか? 」
「それは、手紙にはそう書いてあったぞ」
「そうでございますか・・」
腰元はうつむいてしまって、黙ってしまいました。
「どうしたのじゃ、手紙にはしかと、そう書いてあったぞ」
「・・」
実は、手紙には、殿様が、月の光のように輝いていて、ずっと、見つめていたい。と、書かれてあったのです。
腰元は言います。
「わたくしめにとりまして、殿様は、まさに、夜空のお月様みたいなものと、そう心得ておりまして」
「ふふふ。ふむう。わしは、月のようか」
ほお。さようであるか。
「さあ、手紙には、わたくし、そう書いたつもりですが・・」
「ふむう。はて、手紙には、そう書いてあったかの? 」
と、つい、もらしてしまいました。
字が実は読めないとは、今さら言えません。
腰元には、すっかりと、バレているようです。
「月はいくら輝いていても、しょせんは、遠く手が届きません。そんなお月様より、石ころでいいから、手にしとうございます。わたくしめには、すでに決まった相手がおります」
と、ぴしゃりと言われた殿様は、恋に破れたと言うことでした。
おしまい