どらぽん
魔法のツボが売られていて、500円
と安いので、どうせサギだろうと思って
買ってきた。
オレは、どうやって魔法を使うのだろうと、
考えたが、どうせウソだろうと思い、けれども、
とりあえずと、魔法のツボをぞうきんで、
ふいてみた。
するとどうだろう、ツボから、若い美人の女性が
あらわれた。
「すごい」
オレは思わず叫んだ。
そうしたら、女性も、
「きゃっ」と、叫んだ。
オレは、ワハハハと、笑った。
女性も、にやっと、笑った。
気の合った、オレたち二人は、
ツボの女性を、アラジンと魔法のランプ
と同じように、精霊だと思った。
けれど、女性は、精霊のような高度なもので
なく、願い事も、いくつもかなえられるほどの、
力もないと言ってきた。
「そうしたら、何ができる? 」
オレは、少し、残念な気持ちもしたが、
スケベな気持ちや期待もあって、いろいろ
聞いてみたが、けれども、がっかりなのは、
ツボの女性は、
「わたしができるのは、おしゃべりくらいかしら? 」
「そうか・・おしゃべりか・・」
オレは、あんまりにも、残念なことに、おしゃべりが
あまり好きでない。ツボを押し入れの奥にしまい込んだ。
おしゃべりがあまり好きでないオレが、ツボの女性と、
いくら話をしたとしても、何も願い事がかなうわけでないなら、
まったく無意味で、無駄としかいいようがない。
そう、だからといって、ツボを割る気も起らない。
オレは、いつか、何かの役に立つかも?
と、思い、軽い気持ちで押し入れに入れたのだった。
それからだ。
数年経ち、数十年の月日が流れた。
結婚もしたし、子供もできて、孫にも恵まれた。
たいした財産も持てないが、大きな借金も作ることなく、
まあまあの人生と思える。
年をそれだけ取ったんだな。オレは思う。
妻には先立たれて、孤独さを感じる。
みんなそうだろうな。オレ一人じゃない。
子供は同居してもいいというが、わがままでいい
からと、一人でいる。
死ぬのが怖くなくなるくらい、孤独だ。
寂しい、そう思っていて、退屈しのぎに、家の掃除
をしていたら、押し入れの中から、魔法のツボを
見つけた。
ツボをぞうきんでこすると、中から、若い
美人の女性が出てきた。
「よう! ひさしぶり」
オレは、たとえようもなく、うれしさの
あまりそう言ってしまった。
もう、寂しくないんだ。
おしまい